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東京地方裁判所 平成5年(ワ)21526号 判決

原告 東京日産モーター株式会社

右代表者代表取締役 竹下昌志

右訴訟代理人弁護士 田中義之助

田中修司

被告 板東敏昭

右訴訟代理人弁護士 仙谷由人

石田省三郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一本件自動車の売買契約

証拠(≪省略≫、証人小倉宏王、弁論の全趣旨)によれば左記事実が認められる。

一  原告(江戸川営業所)は、平成三年六月、山下より本件自動車の購入申込みを受け、売買契約の成立を前提に、山下の内妻保坂みさお名義で同月二七日本件自動車の所有権登録手続(新規登録)をした。そして、同年七月四日、山下との間に、本件自動車について、代金五〇〇万円で売買契約を締結し、同日引渡した。

二  当初、代金は引渡の時に現金で一括払ということであったが、その後、約束手形で支払う旨の申し出があり、原告もこれを承諾し、売買契約日に、原告は山下より、振出人有限会社優雅産業、受取人兼裏書人有限会社TIPエステート(代表取締役山下)、金額五〇〇万円、支払期日同年九月二〇日とする約束手形の交付を受けた。

第二本件債務弁済契約

証拠(≪省略≫、証人小倉宏王、弁論の全趣旨)によれば、左記事実が認められる。

一  その後、山下より交付を受けた約束手形が不渡りとなり、原告(担当者小倉宏王、以下「小倉」という。)が調査したところ、本件自動車は、平成三年九月二七日付でフレックス自動車販売株式会社に所有権移転登録手続がなされていることが分り、原告としては、契約を解消して自動車を取り戻すことも困難となり、ともかくも代金を回収することが急務となった。小倉は、山下を訪問して支払を督促し、平成三年一〇月二日、同人は同月二七日までに現金で五〇〇万円を支払う旨約し、その旨の念書(≪証拠省略≫)まで差し入れたものの、支払がなかった。

二  そのため、同月二八日、小倉は山下を訪ね、一括弁済が無理であれば割賦でも良いとして、同月三一日二五万円、平成四年二月一四日までに七五万円を支払う、残金四〇〇万円は四八回に分け、被告を連帯保証人として割賦弁済する旨同人に約させ、その旨の念書(≪証拠省略≫)を差し入れさせたが、同人は同月三一日にようやく三万円の支払をしただけで、同年二月一四日まで待ったものの、残りの支払はなかった。

三  そこで、更に山下に無理のない支払ということで交渉し、割賦弁済の手数料を加えた金額から、先に支払を受けた三万円を控除した残金を四八回の割賦弁済とする本件債務弁済契約を締結した。

しかし、山下は初回の割賦金を支払ったが、間もなく所在が不明となり今日に至っている。

第三本件連帯保証契約

一  証拠(≪省略≫、証人小倉宏王、被告本人)によれば左記事実が認められる。

1  小倉は、山下に対し、割賦弁済について連帯保証人を要求し、同人は前記のとおり被告を連帯保証人にすると約していたため、平成四年二月下旬頃、本件債務弁済契約を締結するに際し、原告で使用している定型の不動文字の印刷された「自動車割賦販売契約書(所有権留保)」と題する書面(以下「本件書面」という。)を二通山下に交付し、被告の連帯保証を求めた。

2  被告は、山下とは同じ会社に勤務していた関係で知合い、それぞれ独立して設計や建設の仕事に従事していたものであるが、平成三年末頃、山下より、同人の事務所で西宮市内の造成工事を請け負うので一緒にやらないかとの話があり、これを承諾して、被告において現地調査、見積等を担当することになった。その際、山下より、現場事務所等に使用するためのキャンピングカーの購入について連帯保証人になることを依頼され、代金五〇〇万円は右工事の請負代金に上乗せすれば良いと言われ、これも了解した。そして、被告は現地調査や見積を行い、右代金五〇〇万円を上乗せする見積をし、これを山下に送っている(その後、前記のとおり山下は所在不明となり、造成工事の話も自然たち消えになった)。

平成四年三月頃、山下より、前記小倉から交付された本件書面二通が郵送されて来たので、被告はキャンピングカーの購入についての連帯保証と考え、この二通の連帯保証人欄に署名押印し、あらかじめ山下より印鑑証明書の添付を求められていたところから、これに被告の印鑑証明書を付して山下宛郵送した(本件書面が被告宛郵送された時点で、被告本人の供述によれば、不動文字以外は白地であったということであり、証人小倉宏王は、自動車の表示や割賦金額は記載して山下に交付したと供述するのであるが、被告のキャンピングカーの購入に関する供述に格別の不自然な点のないことからすれば、被告の供述どおり白地であったと認めるのが相当である。また、証人小倉は、連帯保証人欄に署名押印後、被告から原告宛直接本件書面が郵送されたと供述するが、山下から郵送された経過からしてこのようなことは不自然であり、右小倉の供述は採用できない。)。

二  右事実によれば、小倉は、その後、山下より本件書面二通の交付を受け、作成日付を平成四年三月一三日として所定事項を記載し、現在の書面(≪証拠省略≫)にしたものと推認される。

三  以上の事実関係を前提に本件連帯保証契約の成否について検討するに、本件書面によれば、主たる契約は自動車の割賦販売契約であり、債務弁済契約とは異なるが、その連帯保証とは要するに自動車の代金債務の支払を保証することであり、本件債務弁済契約が結局は本件自動車の代金債務の支払についての契約であることからすれば、本件債務弁済契約を連帯保証することとその間に格別の差はないものと考えられる。そして、本件書面が被告に郵送された時点で不動文字以外は白地であっても、その表題(自動車割賦販売契約書)等の記載からすれば、割賦弁済(代金五〇〇万円について)も当然予想されたことであり、不動文字以外は白地のまま連帯保証を承諾したことからすれば、被告は、本件債務弁済契約のような割賦弁済も含んで、自動車の代金債務の支払を連帯保証したものというべきであり、そのことは、その実質において本件債務弁済契約について連帯保証したことに等しく、本件連帯保証契約は有効に成立しているものと認めるのが相当である。

第四抗弁(錯誤1)

本件書面は前記のとおり表題が「自動車割賦販売契約書(所有権留保)」となっていて、裏面には売買契約の約定が印刷されている。その約定によれば、自動車の所有権は、代金が完済されるまで売主(本件の場合原告)に留保するとされ、割賦代金の遅滞があった場合には、買主(本件の場合山下)は自動車を直ちに売主に引渡さなければならないと定められている。前認定のとおり、本件書面を呈示して(被告に郵送して)、被告に対し連帯保証を求めているのであるから、これらの約定は、本件連帯保証契約を締結するに際し、表示されていることが明らかであり、本件連帯保証契約は、本件自動車の所有権が原告に留保され、代金債務の支払について本件自動車が担保となっていることを前提として締結されたものということができる。

五〇〇万円という比較的高価な自動車(しかも、≪証拠省略≫から明らかなとおり本件自動車はいわゆる新車である。)について、当該自動車が担保に供されているかどうかは、連帯保証契約をするに際しての重要な要素と考えられる。確かに自動車は不動産等と異なり、使用や経年により価格は減少していくが、代金が割賦弁済による時は、自動車の価格の減少にともない、割賦残金も減少していくものであり、残金とその時点での自動車の価格が見あうものではないとしても、担保としての意味は常に存するものというべきであり、連帯保証契約を締結する当事者としては、まず、自動車からの債務の回収を期待して契約を締結するものといえる。

被告は、本件書面の記載からして、右のような所有権留保付売買契約であるとして、本件連帯保証契約を締結したものと容易に推認され、一方、本件債務弁済契約はなんの担保もない契約であることは前認定のとおり明らかであるから、本件連帯保証契約を締結するについて、被告には法律行為の要素に錯誤があったものと認められる。

それゆえ、本件連帯保証契約は錯誤により無効である。

第五結論

以上のとおり、その他の判断をするまでもなく、原告の請求は理由がない。

(裁判官 小田泰機)

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